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神戸家庭裁判所 昭和49年(家イ)390号 審判 1975年9月13日

申立人 井上美智(仮名)

相手方 井上雄一(仮名)

主文

申立人と相手方とを離婚する。

当事者間の長女幸代(昭和四六年八月一四日生)と二女幸子(昭和四八年八月三〇日生)の親権者をいずれも申立人と定め、申立人において監護養育する。

理由

第一  本件記録添付の戸籍謄本、家庭裁判所調査官山口忠保作成の調査報告書並びに当裁判所の申立人に対する審問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

1  申立人と相手方とは、昭和四四年秋頃知り合い、約一年間交際した後、昭和四五年九月二二日挙式のうえ神戸市内において事実上の夫婦として同棲し、同年一二月一九日適式に婚姻届出を了し、その間に昭和四六年八月一四日長女幸代を、昭和四八年八月三〇日に二女幸子を、それぞれ儲けた。

2  相手方は、婚姻前は某会社の自動車運転手をしていたが、婚姻後塗装関係の仕事に約一年間従事したものの、長続きせず、再び自動車運転手として各会社を転々することになり、しかも十分に生活費を申立人に渡さなかつたことから、申立人と相手方との間にいさかいが絶えず、相手方は何回か申立人に暴力を振うこともあつた。

3  更に二女出生後、相手方は帰宅がおそくなり、時には夜中に帰宅することがある等、異性関係があるのではないかと疑われる行動があつたり、また勤務先の会社の金員を費消することがあり、申立人は将来の生活が不安となり、相手方と離婚することを決意し、昭和四九年三月一五日上記二児を連れて、実家に戻り、以後相手方と別居している。

4  申立人は、昭和四九年五月二日当裁判所に対し、「相手方と離婚する」ことを求める本件調停を申し立て、昭和四九年五月二三日に開かれた本件の第一回調停期日には、申立人および相手方が出頭したので、当裁判所調停委員会は、双方から事情を聴取したところ、申立人は上記の事情から相手方とは離婚するほかないと述べたのに対し、相手方は離婚する積りはない、申立人が戻つて同居することを望むという意向であつたので、相手方に対しては、第二回調停期日までに、円満な夫婦関係の回復を望むのなら、そのためどのようにしたらよいかの方策を考えてくることを助言し、申立人に対しては、相手方から円満な夫婦関係回復のための方策の提案があつた場合、その提案に基づき相手方と和合するかどうかを再考するように助言した。

5  ところが、相手方は昭和四九年六月一一日に開かれた第二回調停期日にも、また同年六月二五日に開かれた第三回調停期日にも出頭しなかつたので、当裁判所調停委員会は、本件調停を一旦中断し、家庭裁判所調査官に、申立人および相手方と面接を継続し、当事者間の夫婦関係を解消するか、或いは和合して夫婦関係を回復するかのいずれかに、双方の意向を一致させるよう調整させる必要のあることを決議し、この決議に基づき、当裁判所は、昭和四九年七月四日家庭裁判所調査官山口忠保に対し上記の調整をなすよう命じた。

6  山口調査官は、上記調整命令に基づき、昭和五〇年六月までの間、申立人と当裁判所内で面接したが、申立人の離婚の決意はかたく、他方相手方は面接のため当裁判所に出頭することを約しながら、一回も出頭せず、やむなく同調査官は再三にわたつて相手方住居に赴き、ようやく二回程相手方と面接した結果、相手方は依然申立人と和合し、円満な夫婦関係を回復することを望む意向であることが判明したものの、そのためにどのようにしたらよいかということになると、何等の具体的な提案もなく、徒らに別居状態となつたことについて申立人を責めるのみという状態で、結局双方の意向を一致させることは困難であり、同調査官は昭和五〇年六月二三日双方に対する調整を打切つた。

7  そこで、当裁判所調停委員会は、本件調停を再開し、昭和五〇年八月一日および同年九月二日と二回にわたり調停期日を開いたが、申立人のみ出頭し、相手方は出頭しなかつた。

8  相手方は、別居後申立人に対し、生活費として、昭和四九年六月に金三万六、〇〇〇円、同年七、八月に各金一万円宛の送金をしたのみで、それ以後は全く送金をせず、また昭和四九年一二月頃までは、時々二児と面接させろと申立人に子との面接の要求をしたようであるが、その後はかかる要求もせず、何の連絡もない。

9  申立人は、相手方と別居後、神戸市内の某中華料理店に店員として稼働しており、その収入と両親の援助をえて、二児を監護養育している。

第二  前記認定事実によれば、申立人と相手方との夫婦関係は破綻に瀕しており、しかも申立人は既に就職し、生活力をもつているだけ、離婚の決心はかたく、余程相手方が申立人を納得させるに足る家庭の再建についての具体的な提案をするとともに、定職に就き、生活費を毎月相当期間送金する等申立人の信頼を回復する行動をとらない限り、夫婦関係の回復は困難な状況にあるといわざるをえない。ところが、相手方は「離婚しない、同居を望む」というのみで、夫婦関係を回復する意欲や努力を具体的に示すこともしなければ、当裁判所調停委員会の調停や調査官の調整面接にも応じようとしない。

そうだとすれば、申立人と相手方との夫婦関係を回復させることはもはや著しく困難であるというべく当裁判所は、調停委員の意見を聴き、当事者双方のため衡平に考慮し、一切の事情を観て、本件の解決のため職権で、申立人と相手方とを離婚をさせる審判をするのが相当であると思料する。また、当事者間の二児の親権者には、別居以後引続き申立人が監護養育しており、しかもその監護養育に何ら不適当と認められる点がないところから、申立人を指定するのが相当である。

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 沼辺愛一)

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